【第2話】東日本大震災を福島第一原子力発電所で経験~迫りくる津波~
これは「【第1話】東日本大震災を福島第一原子力発電所で経験~震災のはじまり~」]からの続きです。
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円卓では大型モニターにテレビ会議が映し出され,状況確認が行われています。
大型モニターの隣には各テレビ局が映し出され,すべてのテレビ局で地震と津波警報の報道が行われています。
何もできない私はテレビを皆からただ立ち尽くします。
テレビを見ていると遠目からの福島第一原子力発電所が映し出されていました。
誰かが叫びました。「おい!あれ見てみろよ!」
指を差すテレビを見ると潮がみるみる引いていく様子が映し出されていました。
岸まであった海の水はあっという間に水平線の向こうに消えていきます。
映像では海が完全に干上がって見えました。
周りでは「何だこれは!」「どうなっているんだ!?」「こんなことあり得るのか!?」とみな半信半疑になっています。
次の瞬間,水平線の彼方から白い線が現れ始めます。その白い線は徐々にこちらへと近づいてきます。
「津波だ!」「津波が来るぞ!」と誰かが叫びます。
その白い線は干上がった海を飲み込みなからこちらへ迫ってきます。
津波はみるみる発電所の中に入ってきて設備を飲み込んでいきます。
車がおもちゃの様に流されていくのを私はただ見ていることしかできませんでした。
幸い,免振重要棟は高い位置にあったため津波の被害はありませんでした。
この津波が何を奪っていったのかその時の私には全く理解できませんでした。
そしてその頃の私はまだ「地震と津波は来たけどもあれだけ安全と言われている原発なんだから大丈夫だろう」と思っていました。
この津波が本当の最悪を引き起こすなどとは・・・
「事務所も原発もぐちゃぐちゃになって明日から仕事どうなるんだろう」と考えていると所属グループの上司から声をかけられます。
「おい,みんな集まれ」
そういって若手が集められました。
上司はみんなの目を見ると
「こんな状況だ,お前たちに出来ることはない」「今後どうなるかも分からない」
「今ならまだ車もあるから帰れる奴は今のうちに帰れ」
そう言い残し上司は対策本部へ戻っていきました。
残された私は他の若手と一緒に車に乗り込み,発電所を後にしました。
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この続きは次回「【第3話】東日本大震災を福島第一原子力発電所で経験~3.11の夜~」をご覧ください。